オケゲム Missa De Plus En Plus タリス・スコラーズ

  1. 2011/09/18(日) 13:40:00|
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1990年代半ば頃の録音。なぜだか、正確な録音年月が記載されていない。

以前の記事でスコラ・ディスカントゥスの録音を取り上げた。あちらはわたしの好みを優先した選択。
純粋に充実感とか感銘の大きさで選べば、タリス・スコラーズの素晴らしい演奏。というか、手持ちのすべての音源の中でも、特別な価値を持つ録音、わたしにとって。

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声の美しさと完成度の高い技巧はいつものことだけど、同時に密度の濃さを感じさせてくれる。タリス・スコラーズの録音を他に数点聴いていて、美声と技術の高さに常々感心していたが、表現力の大きさに打たれたのはこの演奏が初めて。
ゆったりとしたテンポで、克明かつ彫りの深い演奏。瞬間瞬間が強く訴えかけてくる。荘厳だ。荘厳なオケゲム。

キリエ、グロリアは、個人的に流動感のある演奏を好む。特にグロリアは。タリス・スコラーズはじっくりやっているので、ちょっと違う。でも、すごく聴かせる。

クレド以降はただただ聴き入るばかり。8名による混成声楽アンサンブルだけど、小宇宙をイメージさせられる。曲も演奏もすごい。
荘厳で格調高いクレド前半には陶然とさせられるし、2声の進行が多くて演奏によっては退屈しやすいサンクトゥス/ベネディクトゥスも、ひとりひとりの技量と表現力の高さに引き込まれてしまう。

この時代のミサ曲は実用が前提であったから、ミサの式次第に則した内容・構成になっている。鑑賞目的で聴くと、退屈を感じる部分があるのは、ある程度は仕方のないことと思っている。
しかし、この演奏に限っては、彫り深く色彩に富んだアンサンブルが、すみずみにまで豊かな陰影とニュアンスをもたらしていて、間然とするところがない。

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あらためてオケゲムの素晴らしさを実感。

歌詞がラテン語であるために、宗教的な意義を有するゆえに、そしてミサの式次第に則しているために、消化しにくい面はあるだろう。
また、フランドルの作曲家たちの中でも、オケゲムのポリフォニーは徹底している。四声が完全に等価で進行する対位法は、聴きやすいものではない。

しかし、そうした障壁の先に聴こえてくるのは、研ぎ澄まされ、純度が高く、豊かな奥行きと陰影を持つ音楽。そして、静かに深く浸透してくる抒情。

その書法は簡潔で、響きはフランドルの作曲家たちの中でも薄い方だろう。音楽は淡々と流れているようでありながら、刻々と表情を変えていく。そのニュアンスの深いこと。聴くたびに新たなきらめきを発見する。

わたしにとっての音楽のコアみたいなものが、純粋な形でここにある。

オケゲム Missa De Plus En Plus スコラ・ディスカントゥス

  1. 2011/08/28(日) 18:32:40|
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わたしの中で、西洋音楽史の中心にいるのが、ヨハンネス・オケゲム。何となくそんな気がするだけ、なんだけど。
オケゲムは15世紀の作曲家。ルネサンスの時代。デュファイ、オケゲム、ジョスカンと立て続けに輩出したルネサンス期前半は、西欧音楽史上のクライマックスのひとつだと思うのだけど、これもそんな気がするだけで、理路整然とした説明はできない。

ルネサンス期の大規模な音楽というと、やっぱり宗教音楽。特にルネサンス期前半はミサ曲。わたしは無宗教だけど、そんな者にとって、ミサ曲は比較的取り付きやすい。原則5つの楽章からできていて、各楽章の意味合いは固定されている。交響曲を聴くのと同じようなノリで聴いている。

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本格的にオケゲムに開眼させてくれたのが、この録音。

1996年の録音なので、わたしにとってはかなり新しい録音だけど、素人っぽい癖の強い録音。教会におけるアカペラ演奏だけど、残響がすごい。大浴場での録音かと疑いたくなるほど。でも、実際の音響がこんな感じなのだろう。オーディオ的に聴きやすくするための加工を施していない、ということなのだろう、好意的にとると。

男女混声のアカペラだけど、録音の特性もあって、4つの声部は一体として響く。ゆったりとしたテンポでなめらかに流れていく。メリハリはちゃんとあるけれど、控えめ。
録音に難があるし、特別にうまい演奏とは感じられない。人には勧めない。演奏のコンセプトがわたし好みなのだ。
録音のせいもあって、各声部の響きはかなりブレンドされていて、一体となって息づき、しなやかに、伸びやかに流れていく。この加減が好みに合う。それはスッキリ感と豊かさのバランスにもつながる。

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オケゲムは長命な作曲家で、作風を何度か変えたのだけど、Missa De Plus En Plusは中期の傑作。

各声部が息の長いフレーズを歌い、それらがまったく均等なバランスでポリフォニーを織り成していく。フレーズは水紋のように干渉しあいながらどこまでも広がっていく。優美で伸びやか。
ルネサンス期のポリフォニーの中では書法としてもサウンドの面でもスッキリしている方だけど、密度が高くて研ぎ澄まされていて、音楽は刻々とニュアンスを変えていく。

無限旋律チックな様式なので、慣れないととりとめなく聴こえる危険がある。そして、辞書に書かれているとおりの純然たるポリフォニー。現代においては聴き手を選ぶ音楽と思う。それだけに、愛好者にはとっておきの愉悦。

前半〜中盤にあたるキリエ、グローリア、クレドが好きだけど、何といってもグローリアがお気に入り。信仰心ゼロ、歌詞を見ないで聴くのだけど、聴いていて胸に迫ってくる。しかも、8分少々という短い時間の中に、胸キュン・ポイント(あるいは奇跡の瞬間)が2つもある。神がかっている、この音楽は。