モーツァルト 交響曲第41番『ジュピター』 クリップス / コンセルトヘボウ管弦楽団

  1. 2011/06/08(水) 01:25:00|
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1972年のスタジオ録音。
ヨーゼフ・クリップスは1902年生まれで、1974年に亡くなった。最晩年にモーツァルトの交響曲をまとめて録音したが、これはその1つ。

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クリップスの個性ははっきりとしている。ゆったりとしたテンポながら、リズムの刻みやフレージングはしなやかで軽快。サウンドはやわらかく弾み、そして広がる。おっとりとして、耳に優しい。そういう方向で、徹底的に練磨されている。

その個性はいささか借り物臭い。20世紀の初頭にウィーンで生まれ育った音楽家として、伝統に培われた「趣味」をクリップスなりのやり方で純粋培養したかのような持ち味。オリジナリティーはちょっと低いかも。
とはいえ、ありきたりなモーツァルトではないと思うし、洗練度は相当に高い。

わたしが聴いたのはフィリップス盤だけど、オーケストラのサウンドとフィリップス・サウンドが、クリップスの持ち味をこの上なく引き立てている。

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クリップスのテイストは、しつこくはないけど濃厚。『ジュピター』交響曲を自分の色に染め上げている。
演奏者の個性が濃厚だと、ときに楽曲の色合いの変化がそれに塗りつぶされて、単調になってしまう。クリップスの持ち味は、その危険性を感じさせるタイプのもの。
この演奏はボーダーライン上にあるかもしれない。

第一楽章はゆったりとした進行ながら、足取りはかろやかで、歯切れが良いのでまったくもたれない。あかるく楽天的な気分は楽曲に合っている。立体感とか雄渾さは乏しいけれど、活き活きとしている。

第二、第三楽章は優雅で豊かな流れが心地よい。ほれぼれとするような美演。音楽の心地よい流れに身を委ねるのが吉。

第四楽章は、言葉にすると第一楽章と同じノリ。ハジけないし、スリリングでもないけれど、各パートのしなやかで小気味の良い動きは心地よい。
この演奏に壮大趣味は微塵もないし、音のドラマとしては穏やか。しかし、こじんまりとはしていない。ゆったりと伸びやかな歌いっぷりとか、活き活きとして開放的な気分とか、多彩なアンサンブルとかがあいまって、スケール感とは違う種類の広がりを生み出している。

聴いている最中に「この感じのままだと、物足りなさが残るかも」との思いが頭をかすめたが、最後に残ったのは充足感だった。