シューベルト 交響曲第8番『ザ・グレート』 セル / クリーヴランド管弦楽団 (1957)

  1. 2011/11/29(火) 21:00:00|
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1957年のセッション録音。ステレオ録音。 空間表現とか質感の乏しさに録音の古さが表れている。しかし、解像度は高くて抜けは良い。想像力で補う必要はあるけれど、手がかりは多い方かも。



セルのこの演奏は、モダン・オーケストラによる演奏としては、思い切り室内楽的なアンサンブルを指向している。各パートを均等なバランスで鳴らし、もっぱらそれらの掛け合いによって表現を作り上げていく。

透明度の高い響きと均等なサウンドバランスのせいで、ボリュームを下げて聴くと、室内オーケストラのように聴こえる。ボリュームを上げていくと、それなりに量感と広がりのある演奏であることが実感される。あくまでもそれなりで、物量のパワーで圧倒してくるような素振りはない。
現代的な(といっても50年以上前の録音)大きな演奏空間に見合う規模のオーケストラを駆使して、室内オーケストラのような親密な演奏を繰り広げている。

といっても、こじんまりとした線の細い演奏とは異なる。サウンドは徹低して透明かつ均質なので、熱気みたいなものは伝わってこないけれど、気迫とか表現意欲は強いと感じる。そして、アンサンブルのフォーメーションはきびきびと小気味よく切り替わっていく。

この交響曲自体に演奏者による脚色を期待しているようなところがあって、そういう聴き方からすると素っ気のない演奏ということになりそう。しかし、脚色を含んだ演奏をあれこれ聴いた後で、たまにこういう純度を高める方向で磨かれた演奏を聴きたくなる。



セルは1970年にもセッション録音している。
1970年録音の方は、テンポの変化やタメがあったりと、1957年録音と比べて自在な表現。解像度より響きの総和を優先しているような録音質を含めて、1970年録音の方には円熟味がある(ただし、録音のクォリティはお粗末と感じる)。よって、そちらを推す人がいても不思議ではないし、わたし自身二者択一となると迷うだろう。

ただし、室内楽的アンサンブルを味わうという切り口なら1957年録音の方が徹底されていると思う。録音を含めて。

シューベルト 交響曲第8番『ザ・グレート』 ベーム / ベルリン・フィル

  1. 2011/11/29(火) 06:00:00|
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1963年のセッション録音。
響きの一体感だとかボリューム感みたいなものはよく伝わってくる。一方、細部は明解とは言いにくい。
とはいえ、録音のコンセプトとして、オーケストラ・サウンドの全体像を捉えようとしている感じなので、一概に音質が悪いとはいいにくい。むしろ、録音年代を考えると、良い方かも。



高弦とか木管あたりはしなやかで、楽曲の展開に的確に対応しているように聴こえる。楽章ごとの味付けの違いなんかも描き分けているような。
だから、ベームの楽曲把握は確かなものなのだろう。

でも、ごつめの中低音+全体を包み込むように広がる低音、という響きの作り方のために、色彩感は乏しいし、彫りが深さを感じにくい。
ベームの音響への嗜好だけでなく、録音の音質、ホールの音響、オーケストラの持ち味、いろんなものが組み合わさった結果なのだろうけれど。

また、上の通りしなやかな表現はあちこちにあるけれど、全体のバランスとしては覇気のある厚い響きの印象が上回っている、と思う。

漫然と聴いてしまうと、堅牢で覇気に満ちているけれど、塊状に響くために、多彩とは言いにくい。
聴き手が好意的な態度で(?)ディテールに耳を傾けるならば、室内楽的というのではないけれど、各声部のバランスを考慮した表情づけを味わうことができる、と思う。



おそらくは、ドイツ的な堅牢な造作と、ウィーン的な柔軟性を併せ持った(前者の方が優勢だけど)、録音時点での独墺圏の王道的作品像を狙った、真っ当で質の高い演奏なのだろう。
こちらが真面目に向き合えば、それ相応の手応えを得られそう。

問題は、聴き手が、この演奏の目指すところにどのくらい価値を感じられるか、によるのではないか。

シューベルト 交響曲第8番『ザ・グレート』 ジュリーニ / シカゴ交響楽団

  1. 2011/11/28(月) 00:00:00|
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1977年のセッション録音。



大柄で強固な枠組みの中、揺るぎない足取りで、各パートの線の動きを明確に鳴らし分けていく。
独特なのは、音の線を解きほぐして、それぞれを曲線的でなめらかにかつ艶やかに歌わせるところ。

フレーズの扱いは歌うようだけど、情緒に溢れている、という風情ではない。むしろ、フレーズの一つ一つを丹念に磨き上げるような感じ。それこそ一拍毎のニュアンスの変化までを浮き彫りにしていく。緻密で、洗練していて、徹底している。

いきなり第一楽章で、ジュリー二流が極まったような強靭なレガートが登場し、驚かされるか、はたまた抱腹絶倒か!?



厚くて充実した弦群と、骨太な金管なんかが、全曲を通して響きを支配している。伸びやかで、豊満で、なめらか。

それでいて、内声部も鮮明に聴こえる。この交響曲で重要な(私見)木管群は、弦や金管と比べると線は細くなるけれど、その動きは明瞭に聴き取ることができる。

こんなところにもオーケストラの性能の高さを感じる。
終楽章の、精度を保ちながらのスリリングかつ盛大な鳴りっぷりは聴き応えがあって、オーケストラの合奏力が大きく貢献していると思う。


演奏の色合いとしては、伸びやかさ、豊かさ、艶やかさが明らかに優位に聴こえる。伸びやかなフレーズが次々繰り出される作品の持ち味と、親和性は高いと思う。

ただし、抑揚は深くて、各パートの連動にもメリハリがあるけれど、響きの質感そのものはよく言えば一貫しているけれど、聴き方によっては色合いの変化は少ないし、陰影に富んだ演奏とは言い難い。

良くも悪くも、ジュリーニその人の演奏様式が強く自己主張しているような聴こえる。

シューベルト 交響曲第8番『ザ・グレート』 ワルター / コロンビア交響楽団

  1. 2011/11/26(土) 18:45:00|
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1959年のセッション録音。ステレオ録音。
艶の乏しい古臭い音質ではあるけれど、細かい音は必要十分に聴こえるし、空間の広がりや量感もまずまず。



他と比べてサウンドの厚味や量感は乏しいものの、室内楽的な響きを目指した演奏として聴くと、納得できるバランス。
リズムは切れよく弾むし、ほどよいテンポで小気味よく進行する。すみずみまで生気は通っている。見通しよく各パートの響きが聴こえてくるが、その中に微妙な強弱コントロールがあって、刻々と色合いを変えていく。ディテールを息づかせたり色づかせたりする手腕は素晴らしい。

一方、全体の安定的なバランスを危うくするような大胆な振る舞いは見当たらない。バランスが崩れるか崩れないかの瀬戸際での勝負、みたいなことをやっていない。"崩し"とか"変化"は数あれどまったく安定している。安全運転の演奏ということではなくて、もとから調和的・安定的な質の音楽を志向しているようだ。

そのせいか、表情の豊かさや活気の平均値は高いのだけど、枠を超えて訴求してくるような瞬間は見当たらない。細部に目を向けると多彩っぽいけれど、遠巻きにして全景をながめてみるとわりと平坦に感じられる。



サウンドにツヤとかコクのあるオーケストラが起用されたら、印象は変わったかもしれない。しかし、ワルターの細やかな表情付けをこれだけ聴き取れるのだから、オーケストラの演奏自体は一定のレベルを超えていると思う。

シューベルト 交響曲第8番『ザ・グレート』 ブロムシュテット / ドレスデン・シュターツカペレ

  1. 2011/11/22(火) 21:00:00|
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1981年のセッション録音。

わたしが聴いてきた中では、もっとも"美しい"部類の『ザ・グレート』。
すっきりと均整のとれたフォルム。すべてのパートが洗練された鳴りっぷり。軽やかかつしなやかで、陰影を含んでいる。気品があって、渋い中に華がある。特に全体をリードする高弦の歌いっぷりに惚れ惚れしてしまう。



ブロムシュテットは、この名門オーケストラの"美しさ"を存分に引き出し、高めることに徹しているように聴こえる。
表現そのものに指揮者の自己主張めいたものを感じない。個性的な表現と聴こえる箇所があっても、もっぱらオーケストラを美質を引き出すための味付けと感じられる。

「職人的」な振る舞いと言えるかもしれない。だとしても、オーケストラの持ち味におんぶに抱っこという態勢ではない。オーケストラを上品かつ美しく鳴らすために、能動的に働きかけている、たぶん。
だって、いかなドレスデン・シュターツカペレとはいえ、常にこの演奏と同レベルのかぐわしさを響きかせているとは思えないから。ブロムシュテットの力が加わればこその洗練だろう。

騒々しさ、トゲトゲしさ、重苦しさ、息苦しさ、油っこさ、粘っこさなど、有害と思しき雑味を丹念に取り除き、それでいて流動感や生気を損なわないように、よく吟味されている、と思う。



気品ある洗練された表現と渋美しいサウンドで『ザ・グレート』を彩る、というのが演奏のコンセプトであるなら、この演奏は完璧と言っていいと思う。
ブロムシュテットの意識はもっぱら感覚的な洗練に向かっていて、心地よさをこれでもかと振りまいてくれるけど、音楽の展開は予定調和的。情緒的な訴えとか、刺激とか、驚きとか、燃焼とかは無いか、あっても微弱。たぶん。
そういうものを聴きたければ、他を当たった方がいいだろう。

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