ワーグナー 楽劇『ワルキューレ』 クナッパーツブッシュ / バイロイト祝祭管弦楽団 1956年

  1. 2011/05/22(日) 13:54:04|
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1956年、バイロイト音楽祭のライブ録音。
ORFEO盤。やけに低音が分厚い録音なので、イコライザーで若干修正。歌に軸足をおいた録り方のようで、管弦楽は奥まって聴こえるけれど、それでも情報量は多い。


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一貫してゆっくりとしたテンポ。ノッシノッシと進行する。速いか遅いかより、リズムの重たさが気になる。もたつく感じがあるのは第二幕の冒頭ぐらいなので、遅すぎるテンポとは感じないけれど、全体にドラマとしての起伏や緊迫感は乏しい。

サウンドをブレンドしないで、音の断面を露出し、その動きのひとつひとつに意味を込めて鳴らす。一見雄弁っぽいけれど、管弦楽の質感は生々しくてゴツゴツとしており、モノラル録音であることを念頭に置いたとしてもサウンドの色彩感は乏しく、変化に富んだ表現とは言いづらい。全曲を重苦しさ・息苦しさが支配している。
まあ、明るくも楽しくもない物語なので、調子外れということはないけれど、音楽としてのドラマ展開の点で、武骨で鈍重な印象を拭えない。


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この重たいリズムだと、歌い手は演劇的な歌唱が難しいようだ。セリフというには端整な歌いっぷり。ただし欠点ということではない。こういうのもありかな、と思う。クナッパーツブッシュによるどっしりと濃密な表現に引っ張られてか、じっくりと克明に歌い上げられているので、そういう方向でのおもしろさを味わえる。

冒頭に書いた録音特性も手伝って、往年の名歌手たちの歌唱は迫力満点。特に第三幕のホッターの声や表現力には圧倒される。わたしは歌唱にさして関心のない者なので大したことを言えないけれど、クナッパーツブッシュ抜きで、歌唱のためだけに聴く価値があるかもしれない。


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クナッパーツブッシュの指揮について、上のとおり鈍重で柔軟性を欠くが、生ぬるいということは全くない。むしろ、気に入る気に入らないにかかわらず、異様な空気を放っている、と感じる。

演奏自体には気迫があって、畳み掛ける勢いはないかわりに、盛り上がる場面での音楽のうねりにはただならぬ迫力がある。濁流が渦巻くようで、一概に心地よいとは言えないけれど、思わず聴き入ってしまうような、ちょっとクセになりそうな感触。いずれにしても、クナッパーツブッシュのワーグナー以外では、あんまりお目にかかれない感覚と思う。
『ワルキューレ』という芝居のドロドロした面とか、その音楽が執拗に表現する情念とか激情とシンクロして、妙な説得力を発揮している、ような気がする。


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第一幕後半はゴツゴツしたり粘っこかったりで美しくない。第三幕の騎行はドスは効いているけれど格好良くない。魔の炎の音楽に解放感はなく(そもそもハッピーエンドではないけれど、聴き手を作品世界から解放する効果のある音楽)重苦しい。全般的にドラマの展開は鈍い。というように、物足りない点が少なからずある演奏。
が、やろうとしたのに力及ばなかったわけではなく、もともとそういう方向を向いている演奏ではなさそう。

抽象的な表現で恐縮だが、クナッパーツブッシュの音楽は、動的にドラマを語ることよりも、音による世界観を構築していく感じ。舞台上のドラマティックな展開を、一定の気分とか雰囲気が厚く覆っている。激しくて力強いけれど、音楽のあり方としては静的な感じがある。
そして、彼がもたらす暗いエネルギーが渦巻き噴出するような音のイメージには、創造神話における原初の混沌を連想させるところがあって、作品の世界観にハマっているような気がしないでもない。

そうだとしても、やっぱり『パルジファル』や『トリスタンイゾルデ』なんかと違って『ニーベルングの指輪』四部作は物語性が強い。世界観とともに、個々の場面ごとに場にふさわしい空気を醸してくれないと、物語は生き生きと回っていかない、と思う。

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